第70章 彼女は予備

杉浦杏奈がカウンセリングルームを出ると、灰原仁司は廊下の椅子に座り、スマホから目を離さずにいた。

「配信部屋をご覧のみなさん、ありがとうございます。今回当選した3名の方は、忘れずに運営へご連絡ください。車をお受け取りいただけます」

……車?

杉浦杏奈は眉をひそめた。本来なら、ノーギャラの「顔」である自分が配信に出るはずだった。出られなかったからって、灰原仁司が配信部屋で抽選して……車を配る?

軽口のひとつも叩いてやりたかった。けれど胸の奥が重く沈んでいて、結局、何も言えない。

彼女の姿を確認して、灰原仁司はようやく立ち上がった。何も聞かない。余計な一言すらない。

二人は前後のまま...

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